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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)3083号 判決 1972年9月11日

原告 竹内宏治こと鄭判石

同 東宏産業株式会社

右代表者代表取締役 竹内宏治

右両名訴訟代理人弁護士 段林作太郎

被告 生島辰枝

右訴訟代理人弁護士 田邊照雄

主文

被告と株式会社大西商店間の大阪地方裁判所昭和三三年(ワ)第一七五三号土地明渡等請求事件の判決に大阪地方裁判所書記官林英三郎が昭和四五年五月二九日原告ら両名を株式会社大西商店の特定承継人として付与した執行力ある正本に基づく強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和四五年六月一七日になした強制執行停止決定はこれを認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

主文第一、二項同旨の判決。

二、被告

原告の請求を棄却する、との判決

第二、当事者の主張

一、原告

1、請求原因

(一)、被告は、昭和四一年四月二七日、被告を原告とし株式会社大西商店(以下単に大西商店という)を被告とする大阪地方裁判所昭和三三年(ワ)第一七五三号事件(以下本件事件という)において、大西商店は被告に対し別表第二記載建物(以下本件建物という)ならびに別表第一記載の土地(以下本件土地という)上の門塀その他の工作物一切を収去して本件土地を明渡すべき旨の判決を受けた。

昭和四五年五月二九日大阪地方裁判所書記官林英三郎は被告に対し原告両名を大西商店の承継人として右判決につき承継執行文を付与した。

(二)、しかしながら、原告らは次の理由により大西商店の承継人ではない。

(1)、大西商店は本件建物を堀内久子に譲渡し、その後昭和四三年三月八日原告鄭判石は右堀内久子から本件建物を買受け、その後原告東宏産業株式会社(以下原告会社という)に賃貸し以来原告会社が本件建物を使用し本件土地を占有するに至ったものであるが、当時本件事件との関連事件である大阪地方裁判所昭和四〇年(ワ)第五六五九号事件が未だ控訴審に係属中であった(大阪高等裁判所昭和四一年(ネ)第七〇〇号)から、原告らを「口頭弁論終結後の」承継人ということはできない。

(2)、仮に然らずとしても本件事件における被告の請求原因はその転貸借終了に基づく本件土地明渡請求権であり、従って債権的請求権であるところ、原告らはいずれも前記の如き経緯により本件土地を占有するに至ったもので債権的請求権に対応する債務を承継したものではないから、原告らは大西商店の承継人ではない。

(3)、仮に然らずとしても大阪地方裁判所書記官は、原告会社に対し本件建物退去により本件土地を明渡す限度で前記承継執行文を付与したものであるが、本件事件の判決主文には退去明渡を命ずる記載はないのにこれを付与したのは違法である。

(4)、また、大西商店は被告から本件土地を賃借するに際し敷金五〇万円を差入れていたが、本件建物を大西商店が堀内久子に、同人から原告鄭判石に順次譲渡するに際し、大西商店の被告に対する敷金返還請求権も順次譲渡せられたから、原告鄭判石は右敷金五〇万円の返還を受けるまで本件土地につき留置権を行使する。

(5)、原告鄭判石は昭和四三年三月八日堀内久子から本件建物を善意で取得したものである。

(6)、原告鄭判石は本件建物を買受けて以来、本件土地所有者生島昌子が本件土地の賃料受領を拒んでいるため、やむなく地代相当額を取引銀行に預託しており、いつでもその支払をなし得る状態にある。

(三)、よって、原告は前記執行力ある正本に基づく強制執行の不許を求める。

2、抗弁に対する認否

本件土地が生島昌子の所有であり被告は生島昌子から本件土地を借りてこれを大西商店に賃貸していたことは認めるが、その余は否認する。

二、被告

1、請求原因に対する認否

請求原因(一)は認める。

2、抗弁

(一)、原告らは大西商店の承継人である。

(1)、本件事件の請求原因は、被告の大西商店に対する本件土地賃貸借契約解除に基づく本件建物収去右土地明渡請求権であるから、一応債権的請求権が訴訟物である。

しかし被告は本件土地所有者である生島昌子から本件土地を使用借したうえ大西商店に賃貸していたものであり、生島昌子に代位して大西商店に対し所有権に基づき本件土地明渡請求をなし得る地位にあった。

そして右事実は本件事件の訴訟手続中において主張立証されていたものであるから、本件事件の判決で認容された被告の大西商店に対する本件建物収去本件土地明渡請求権は、右代位行使にかかる所有権に基づく請求権によるものとも評価することができ、結局所有権に基づく本件土地明渡請求権も訴訟物になっていたものである。

そして、本件判決確定後の昭和四二年六月二六日大西商店は本件建物を堀内久子に売却し、その後堀内久子は昭和四三年三月八日本件建物を原告鄭判石に売却し、同時に本件土地の占有をも順次移転し、その後原告会社は原告鄭判石から本件建物を賃借して使用し、本件土地を占有しているから、原告らは大西商店が有していた本件土地の占有を承継したものというべく、原告らは本件事件の被告大西商店の承継人である。

(2)、仮に右主張が理由がないとしても、前記のとおり本件建物が大西商店から堀内久子に譲渡された際、堀内久子は大西商店の本件事件の判決に基づく本件建物収去本件土地明渡義務を引受け、さらに原告鄭判石が右堀内から本件建物を買受けるに際し、堀内から本件建物収去本件土地明渡義務を引受けたものであり、原告会社は原告鄭判石から本件建物を賃借するに際し、本件建物退去本件土地明渡の限度で右義務を引受けた。

第三、≪証拠省略≫

理由

一、請求原因(一)は当事者間に争いがない。

二、本件事件の請求原因が被告の大西商店に対する本件土地賃貸借契約解除に基づく本件土地明渡請求権であること、本件建物を大西商店は堀内久子に売却し、その後昭和四三年三月八日堀内久子は原告鄭判石に売却し、同時に本件土地の占有も順次移転されたこと、原告鄭判石はその後本件建物を原告会社に賃貸し、原告会社が本件建物を使用して本件土地を占有していることは当事者間に争がない。そして≪証拠省略≫によれば本件事件の判決は昭和四一年八月二六日までに確定したことが認められ、関連事件が控訴審に係属中であることによりその確定判決としての効力が左右されるものではなく、その後の承継人を口頭弁論終結後の承継人と解するに妨げない。

ところで口頭弁論終結後の承継人と言い得るためには口頭弁論終結後に当該訴訟物につき当事者たるべき適格を伝来的に取得した者をいい、訴訟物である権利関係についての地位の承継を伴う場合でなければこれを右にいう承継人となすを得ないものと解するのを相当とするところ、本件事件の請求原因は被告が大西商店に転貸していた本件土地の転貸借契約終了に基づく明渡請求権でいわゆる債権的請求権に属し本件土地そのものは訴訟物の目的となっている物にすぎず、訴訟物そのものではなく大西商店の明渡義務は本件土地の借主たる地位に伴って有するものであるから、特段の事情のない限りその被告たるべき適格者は当該賃貸借契約の借主に限られ、賃貸目的物の占有者が何人であるかは問わないから本件事件の口頭弁論終結後借主たる本件事件の被告大西商店が第三者たる原告らに契約上の借主たる地位を移転することなく単に本件土地の占有を移転し、現在原告らが本件土地を占有しているからといって、借主大西商店に対する判決の既判力が当然には原告らに及ぶものではないというべきところ、被告は、本件土地所有者生島昌子に代位して所有権に基づき本件土地明渡請求をし得る地位にあり、右事実は本件事件の訴訟手続で主張立証されたから所有権に基づく本件土地明渡請求権も訴訟物となっていた旨主張するが、所有者に代位して明渡請求をし得る地位にあったことのみではそれが訴訟物となることはなく、請求原因として主張されてはじめて訴訟物となるものであるところ、≪証拠省略≫によると、右の点が主張されていたことを認めることはできない。

また被告は、本件事件の判決に基づく大西商店の被告に対する本件土地明渡義務を原告らが引受けた旨主張するが、≪証拠省略≫を総合すると、本件建物に対しては昭和四四年一〇月六日に始めて処分禁止ならびに現状維持の仮処分がなされたもので、原告鄭判石はかかる瑕疵のないものとしてこれを買受け、原告会社を設立してプラスチック、アルミ製品等の製造販売をしていることが認められ、これと、通常、売主においてかかる明渡義務のあることをわざわざ明らかにして売買するが如きことはありえない事実とを合せ考えると、原告鄭判石は少くとも堀内久子から独自の立場で本件建物を買受けたにすぎず、特別に本件土地の明渡義務を引受けたものではないと解するのを相当とするから、被告のこの点の主張も理由がない。

二、そうすると原告らは本件事件の被告大西商店の承継人ということはできず、従ってその余を判断するまでもなく、原告らを大西商店の承継人として付与された執行力ある正本に基づく強制執行は許されないから、これが不許を求める原告らの請求は理由がある。

三、よって、原告らの請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、強制執行停止決定の認可ならびにその仮執行宣言につき同法五四八条一項二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 斎藤光世 竹江禎子)

<以下省略>

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